はじめに
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)が胃癌に関与することは皆様ご存じの通りです。ただピロリ菌についての情報が氾濫しているためか、混乱しているような印象を受けます。
普段の診療で質問されることや気付いたことについてここに書き記したいと思います。
なぜピロリ菌検査を希望されるのか?
この文章をお読みになっているということは、あなたはピロリ菌検査を受けて胃の健康を守りたいと思っているに違いないでしょう。
ピロリ菌は慢性萎縮性胃炎を起こし、それが胃癌になっていくことが問題となっています。
慢性萎縮性胃炎があるかどうかが一番大事で、ピロリ菌はその次の話です。
ピロリ菌検査が一人歩きしていますが、本来であれば内視鏡検査で慢性萎縮性胃炎の有無と程度を確認することが一番大切です。
検診機関ですべての人の内視鏡検査を行うことが物理的に出来ないために、ピロリ菌検査を行い、慢性萎縮性胃炎がありそうな人に注意喚起をしているだけです。
もう一度言います。
慢性萎縮性胃炎の有無および程度を診るのが最も大事です。
ピロリ菌検査
人間ドックなどで行われる採血による検査が一番受けられることが多いのではないでしょうか。血清ピロリ菌IgG抗体といわれるものですが、なかなか判断が難しいことが多いのが現状です。
ピロリ菌そのものをみているのではなく、ピロリ菌と身体が喧嘩している(免疫)反応、もしくは過去にした反応をみているようなものです。
残念ながら肝炎ウイルス検査などとは異なり、血中にピロリ菌は存在せず、血液検査の精度には限界があります。胃内に生息しておりますので、直接測定することは胃の中に内視鏡を入れる作業が必要となりますが、それでも100%の精度は得られません。
よって血液検査は判定が難しいことが多いことをご理解ください。アメリカのガイドラインでも血清IgG抗体は使用されなくなりました。
血液検査(血清IgG抗体)、呼気検査(尿素呼気検査)、便検査(便中抗原検査)、尿検査(尿中抗体検査)が内視鏡を使わずに行える検査です。
ただ残念なことに偽陰性(実際は存在するのに、検査では陰性との判断となるエラー)が多いのが困りものです。
ピロリ菌検査の流れ
なぜ内視鏡検査が必要なのか?
慢性萎縮性胃炎の診断のためです。ピロリ菌が現在進行形でいそうな胃なのか、過去にいて蝕まれた胃なのかを確認するためです。
熟達した内視鏡医は胃の粘膜を診て、ほぼピロリ菌が居るかどうかを診断できます。(ちなみに大阪のにしやま消化器内科では必ず2名の医師でのダブルチェックで診断精度を上げる体制を取っています)
通常、当院では内視鏡検査時に迅速ウレアーゼ試験で有無を確認し、内視鏡診断と不一致があるようであれば、尿素呼気試験などを組み合わせることで感染の有無を正確に判断します。
胃粘膜を詳細に診ることで、ピロリ菌が現在感染しているのか、過去に感染していたのかがほとんど分かるようになってきました。
胃粘膜の観察は非常に奥が深いもので、日々診断技術鍛錬が必要と痛感させられます。
ピロリ菌が居なくなると胃がんにならないか?
残念ながら、胃がんになる可能性が残ります。
除菌するまでにずっとピロリ菌に障害されつづけてきた胃粘膜ですので、除菌した瞬間に魔法のようにそのリスクから逃れることは出来ません。
例えて言うならば、禁煙した翌日から肺がんにならないというのは何とも虫のいい話と思われるのと同じじゃないでしょうか。
ピロリ除菌後に再感染するのか?
基本的には再感染する可能性は非常に少ないと考えられます。再感染する例は、個人的には除菌治療の判定が甘くて残っていたものが多く含まれているのではと考えております。
本当に除菌が出来ているのかということについて、当院では1年後に内視鏡検査した際の胃粘膜の変化が一番確実な除菌判定と位置づけております。
ピロリ菌はどうして感染するのか
5歳までの間にピロリ菌に感染すると考えられています。水や母親などのご家族からの経口感染が多いとされています。