機能性ディスペプシアとは
機能性ディスペプシアは、胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みをはじめとする症状が自覚されている一方で、内視鏡で観察しても粘膜に異常が認められない病気です。内視鏡検査が広まる以前は、神経性胃炎やストレス性胃炎、慢性胃炎などと診断されることもありました。
ある調査では、日本人の10人に1人が機能性ディスペプシアであると言われています。
胃食道逆流症(GERD)・機能性ディスペプシア セルフチェック
改定Fスケール(Modified Frequency Scale for the Symptoms of GERD)
※あなたは以下にあげる症状がありますか?
ありましたら、その程度にチェックを付けてお答えください。
Kusano M. et al.: J Gastroenterol. Hepatol., 27(7), 1187-1191(2012)
ディスペプジア症状の点数が多い方は、機能性ディスペプシアの可能性があります。
GERDの点数が多い方はGERDの欄をご参考になさって下さい。
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアの原因には、さまざまなものが考えられます。また、それぞれの原因が互いに影響し合って、症状を悪化させていることも少なくありません。
胃・十二指腸の運動機能の阻害
胃に食べ物が溜まり、その先へと送られる機能に異常があるケースです。送られるタイミングが早すぎたり、遅すぎたりすることで、症状が現れます。ストレス、過食、不規則な食生活、喫煙、アルコール摂取などがそのリスク要因になると言われています。
また大腸の動きが悪く、便秘気味の方もディスペプジアの原因になりやすいです。
胃・十二指腸の知覚過敏
健康な方の胃や十二指腸は症状が出ませんが、わずかな刺激が誘因で症状が出やすいケースです。また十二指腸内の胃酸や脂肪に対し、症状が出る場合もあります。
ストレス・トラウマ
脳と腸管の機能は、互いに影響し合っています(脳腸相関)。そのため、強いストレスを抱えることで、腸の機能が阻害されることがあります。過去に受けた虐待のトラウマが、機能性ディスペプシアの原因になることもあります。
その他
ヘリコバクター・ピロリ菌感染や感染性胃腸炎などの疾患、遺伝、喫煙習慣、アルコール摂取、不眠などを原因として、症状が現れることがあります。
検査・診断
機能性ディスペプシアは、「内視鏡で観察しても粘膜に異常が認められない状態」にもかかわらず、胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みをはじめとする症状」を呈する疾患です。
具体的には、みぞおちの痛み、みぞおちの焼けるような感じ、胃もたれ感、早期満腹感のうちの1つ以上の症状が慢性的にあり、胃カメラ検査、ピロリ菌検査の他、血液検査、エコー検査などで異常が見つからない場合に、機能性ディスペプシアと診断します。
ピロリ菌と機能性ディスペプシア
かつては「慢性胃炎」とひとくくりにされていたケースでも、現在は厳密に診断が下されるようになっています。その代表的な疾患が、ピロリ菌感染性の慢性萎縮性胃炎と機能性ディスペプシアです。特にピロリ菌感染による萎縮性胃炎が持続していると胃の運動能が低下したままになります。除菌治療にて胃の運動能を取り戻す可能性があります。正しい診断を受けることで、適切な治療が可能になります。
慢性的な胃の症状で長くお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
治療・お薬について
機能性ディスペプシアの治療では、投薬と生活習慣・食習慣の改善が重要になります。
お薬による治療
諸症状の考えられる原因に応じて、胃酸の分泌を抑える薬[PCAB(ボノプラザン)、プロトンポンプインヒビター(エソメプラゾールなど)、H₂ブロッカー(ファモチジンなど)]、胃の働きを助ける薬(アコチアミド、モサプリドクエン酸)、漢方薬(六君子湯など)などを使用します。
抗うつ薬や抗不安薬(スルピリドなど)が有効であるケースも見られます。
また、ピロリ菌に感染している場合には、ピロリ菌の除菌治療を行います。
生活習慣・食習慣の改善
規則正しい生活を取り戻すことで、自律神経の乱れを改善することができます。胃腸の動きが低下していることから、水分を多く摂り、小分けにゆっくり食べることを意識しましょう。
また、胃に優しい食べ方(よく噛む・食べ過ぎない・食べてすぐ運動をしない)をすることも有効です。
予防・食事について
機能性ディスペプシアの予防では、生活習慣と食習慣の改善が有効です。
また、機能性ディスペプシアになる方は、ストレスを抱えがちだと言われています。ストレスを“ゼロにする”のではなく、“うまく付き合っていく”ことを意識していきましょう。
生活習慣の改善
機能性ディスペプシアの原因にはさまざまなものが考えられ、自律神経の乱れもそのうちの1つになることがあります。
バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動により生活リズムを取り戻し、自律神経の働きを整えておきましょう。
また、喫煙習慣のある方は、できる限り禁煙しましょう。
食習慣の改善
よく噛むこと、食べ過ぎないこと、食べてすぐに運動をしないことなど、「胃に優しい食べ方」をするのが第一です。こちらは、意識さえできればすぐに実践が可能です。
併せて、体調を整えるためにも、バランスの良い食事を摂るように気をつけましょう。いきなり過度に節制するのは、かえってストレスとなる恐れがあります。無理のない範囲で徐々に改善していきましょう。
ストレスと“うまく付き合っていく”
ストレスは、日々激務に追われている人だけに起こるものではありません。主婦・主夫の方、学生の方、定年退職後の方、お子様、誰でも生活の中のどこかでストレスを感じています。
そして中には、大きなストレスを受けても、それをうまく解消している人がいます。反対に、それほどストレスは大きくないのに考え過ぎる人、解消する術を知らないためにいつも心身に負担を抱える人もいます。こまめにストレスを解消したり、ストレスに負けない体と心を整えたりするなどして、少しでもストレスと上手に付き合っていく工夫が必要です。
朝は決まった時間に起きましょう
朝は、決まった時間に起きるようにしましょう。同じ時間に起きることで、同じ時間帯に身体の機能が活発になり、調子を整えやすくなります。仕事や勉強、家事の能率も上がり、ストレスの原因となるミスやトラブルを少なくすることができます。風邪をはじめとする病気にも強くなります。
適度な運動をしましょう
身体を動かし、程よく汗をかくのは、ストレスの解消に大いに役立ちます。ウォーキング、ジョギング、水泳、その他のスポーツなど何でも構いません。ちょっとした時間に気軽にできるものを一つ作っておくと良いでしょう。
ただし、アスリートが取り組むような厳しいトレーニングなどは逆にストレスとなることがあります。無理なく、運動を楽しむことが大切です。
趣味の時間・リラックスできる時間を確保しましょう
音楽鑑賞、映画鑑賞、生き物の飼育、スポーツ、読書、ヨガなど、趣味に打ち込む時間を作りましょう。
また、夕方から夜にかけてリラックスできる時間を確保することで、自律神経のバランスが整い、スムーズな入眠を促します。